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    「さうだね。まさか医者の家に古障子の玄関といふわけにもいくまいね」

    徳次はいつのまにか腕組みをしていた。あのあてずつぽうな、そゝつかしい、力りきんだ様子が現れていた。

    が、ぴんと張つた肩衣のためによけい幅広く見える後姿で、木箱のやうな沓くつをがたつかせ、戸外の明い日ざしの中でその紅い滲んだ紙色をまざまざと照し出されながら、歩いてゆく房一を見送つたときには、紛ふことなき珍妙さが、しかも「堂々」と歩いている形だつた。そして、百何十人もの老壮若の戸主達がこのばさばさした紙で着ふくれ、列をなして歩くときの様子は、まさに観物にちがひない、といふ実感を抱かせたのである。

    「いかんと云ふわけもあるまいさ」

    「えらい昔話が又ぶり返したんだな」

    「どうもこれぢや――」

    それは杉倉といふ所から来た。塔の山とは反対に、ずつと上手に河原町を出外れて、それから更に急坂を一里ばかり上つた所の、相沢といふ家だつた。相沢と云へばこの近所では誰も知らぬ者はない、そんな不便な土地でありながら大きな酒造家である。使ひの者が来て、急ぎはしないが明日あたりにでも往診してほしい、と云ふことだつた。房一にはそんな相沢みたいな家から往診をたのまれやうとは意外であつた。

    男はまだ立つて、あの話を持ちかける構へといつた風を持していた。

    「いゝ恰好で!」

    練吉と房一は、川沿ひの路を、肩を並べて自転車を走らせていた。

    「さうです、一寸」

    男は病人から房一へぎろりと眼を移すと、

    「ほう、クレーといふのはカワラケのことかね」

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