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    「いゝや、まだ」

    と、新聞紙から眼をはなした練吉は、一寸正文の邪魔になりさうな足をひつこめただけで、別に行儀のわるい姿をなほさうともせずに、又新聞を持ち上げながら、

    房一はふりかへつた。

    「ふうむ」

    房一は前の方を向いたまゝだつた。

    「いゝよ、君。帰りたまへ、その方がいゝんだから」

    「ほう、さうか。毎年あるのかね。そいぢや、これから度々見られるわけだな」

    根津は自分の座敷から脇差を持ち出して再び便所へ行った。戸の板越しに突き透してやろうと思ったのである。彼は片手に脇差をぬき持って、片手で戸を引きあけると、第一の戸も第二の戸も仔細なしにするりと開いた。

    「いつたい、今日は何ごとかの」

    盛子の顔からはもうあの一人でうれしがつているやうな無邪気さは消えていた。代りに現れたものは物柔い優しさに満ちた注意深さだつた。

    だが、その間にも土手の押問答はつゞけられた。

    「さうだよ、ジョン」

    「あの山に田地を注ぎこんで裸になつたのは三人、わしも知つとる」

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